前田紀貞建築塾
アルゴリズム建築コースについて
前田紀貞建築塾では、近年増々注目を浴びているアルゴリズム建築の創造を目指す「アルゴリズム建築コース」を開講いたしました。
さて、今期より新生なったこのコースの最大の特徴は、コンピューター・アルゴリズムを用いた建築について、プログラミング技法のみならずその基底に流れる(べき)思考や具体的な建築創造の方法論まで総合的にカバーしていることです。 具体的な授業の内容は、次のような4つの要素から構成されています。
① アルゴリズムを扱う基本思想の会得
② コンピューター言語(Processing)の習得
③ Grasshopper(3D CAD Rhinocerosのアルゴリズミック・エディタ・プラグイン)の習得
④ それらを実際の設計課題で創造的に扱うことの訓練
【プログラミング演習】14:30〜16:30
さて、休憩を挟んでの授業後半は、実際に手を動かしてプログラミング技術を習得する<プログラミング演習編>です。
この演習編の講師は、知る人ぞ知る荒川修作+マドリン・ギンズの”三鷹天命反転住宅”にてCHIASMA FACTORY一級建築氏事務所を主宰する辻真悟と、前田アトリエのスタッフ・殿村勇貴の二人が務めます。ちなみに、辻講師は前田紀貞建築塾の3期生でもあり、現在は台湾で建設中のENISHI RESORT VILLAを始めとするプロジェクトで前田紀貞アトリエとの共同作業を行っている建築家です。
プログラミングに使うのは「Processing」という言語(ソフトウェア)です。Processingについての詳しい説明はここでは省きますが、現在の主流言語の一つであるJavaをベースに、主にビジュアルデザインやエレクトリック・アートでの使用を想定して作られたオープンソース言語です…と言っても分かりにくいと思うので (^_^;)よりザックリと言うと、プログラミングに馴染みが薄いデザイナーやメディア・アーティストでも簡単に使えるようにカスタマイズされたコンピューター言語の一つです。
このPorcessing、日本の建築界ではまだやっと名前を知られてきた程度なのですが、発祥の地アメリカをはじめ、世界中では既にメジャーな言語/ソフトウェアなんです。Processingの詳細はこちら→http://www.processing.org
【アルゴリズム建築講義】13:30〜14:30
=授業前半が塾長・前田による「アルゴリズム建築講義」
=後半が講師の辻真悟・殿村勇貴による「プログラミング演習」
の二本立てで進められます。授業初回のこの日は、アルゴリズミックな方法によって建築を扱う時の大前提となる「心構え」の説明が、この講義の講師である塾長(前田紀貞)より成されました。
以下がその主なポイントです。
1. アルゴリズムというものが「自律と他律」のバランスの「他律」に関わることの認識(しかし、自律も忘れ られてはならない)
2. アルゴリズミック・デザインの6種類の分類について。当塾では、現在その中で最も普及していない「アルゴ リズムと“創作”との関わり」について学ぶこと
3. 「コンピューターの中に自然がある」という言葉の意味。さまざまな自然現象や自然の形態に見出される驚くべき秩序の裏にある「摂理」にコンピュータ・アルゴリズムを媒介として接近することの意味
私たちが常日頃考え、希望しているのは、アルゴリズミック・デザイン手法・思考法が、単に新奇な形態デザインや設計作業の効率化の道具であるだけに終始していてはいけない、ということです。実際、今日アルゴリズミック・デザインと呼ばれているものの大半はそういうアプローチによるものが多いのが事実であり、中には「これをするのにわざわざアルゴリズムを使うの?」というケースも少なくありません。そういう態度が、本来アルゴリズミック・デザインという手法が建築設計という営みに対して持つ底なしの可能性の根を潰し、数ある「設計技法」の中の単なる一つのカテゴリー(「便利」かもしれないが「必須」ではないもの)だという誤解を生んでしまっているのです。
前田紀貞建築塾では、そのように限定的で曲解されたアルゴリズミック・デザインを越えて、アルゴリズムというものが実は、“いにしえ”からあった「自然」や「東洋の思想」と根を同じくするものであるという思想を大前提に置き、大切にしています。
技術の習得・使用を真の意味で「血肉化」と呼べるレベルにまで昇華させるのに必要な、そういう骨太な「思想」や「意識」があってこそ、単なる技術論を超えて来るべき真の「現代建築」へと繋がるパラダイム・シフトを招来することができると考えるのです。第一日目となるこの日の<講義編>は、前田アトリエの作品による実例を紹介しながらそのような話を説く前田塾長の講義で幕を開けました。
塾生の反応を見ていると、何となくピンときている人、うむむ…と頭を捻っている人、まだ良く分からないけど何か新しいものを感じて目を輝かせている人など色々ですが、これから自分の手と頭で「アルゴリズム建築」との格闘を実践していくなかで、塾長の話の意味も「あの時の話は、こういうことだったのか…」と徐々に染みこんでくるはずです。