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​I remember you

2009年に竣工したもので、「最も明るい住宅(家)の為のアルゴリズム」という設計手法によって生成してきた住宅(家)の空間・形態です。クライアント からの要望である「明るい家」というものを、単に雰囲気や勘で実現するのでなく、精密に「光量を測定するアルゴリズム」によって空間と形が導き出されました。

-設計   :前田紀貞アトリエ一級建築士事務所(担当:白石隆治)+Proxy NY(コロンビア大学)
-構造設計 :梅沢建築構造研究所
-詳細説明1 :ブログ:アルゴリズム建築と作家性
-詳細説明2 :ブログ:記憶を光に変えたアルゴリズム

まず、四季を通じて・一日を通じて移動する太陽光の軌跡をデータとして定義するところから始めます。このとき、光を一つの玉として考えます。

次に、この太陽の軌跡の下に、敷地周辺に密集する建物群と1年間、朝から夕方までの太陽の軌跡の通り道の合計を設定します。

次の段階で、空から3階の屋根に降ってきた「光の玉」が、そこから更に、できるだけ最下層の1階も明るくなるような方法を考えてみます。その際、おおまかに各諸室の光を当てたいポイントの優先順位・優先場所(リビング・ダイニング・寝室・玄関 等)を決めておき、それが縦方向に3層分重層してゆくという構成の中、“光の玉”が最大限一番下の地面のレベルまで落ちるよう計画します。

そしてここで、建築の「ルール」を決定します。この「ルール」設定は、アルゴリズムを走らせる為の関数のようなものです。「今回は、どんな関数(ルール)を採用しようか?」という「選択」にこそ、このプロジェクトだけの創作の個性が出るということなのです。

ちなみに、コンピューターによるアルゴリズムを走らせた結果が出る以前の形態を、アルゴリズムの結果が出てきてから比較してみますと、相当の点で、光のシミュレーションが不正確、不充分であり狂っていることがわかりました。

アルゴリズムに話を戻すと、ホットスポットと呼ばれる、“光の玉”が上空から一番降ってくる赤い点で示された【この辺り】が、「上からの光」をキャッチする「トップライト」が設置されることになるであろう場所となります。

ただ、ここで【この辺り】と曖昧なふうに書いたのには、ホットスポットの分布状況をそのままトップライトとして現実化すれば、予算的・施工的にはまず不可能な提案となったまま解析が終わってしまいます。

解析の結果が、現実の状況に生かされることが前提でなければ何も意味はありません。そこで、これを現実の予算状況や施工精度に合うよう、擦り合わせをする必要が出てきます。

上の4種類の図は、左端から右端に行く程、【解像度】が低く設定されてあります。左端が今回のアルゴリズムの計算結果には最も近いものなのですが、そのままですと、現実的には施工不能となってしまいます。

よって、このアルゴリズムを現実側に擦り合わせする方法として、その【解像度】を落とすことによって、工事費や施工精度との整合を計るように調整することが必要となります。

 

実は、このアルゴリズムによる検討は、「中性的な光の総量がどれだけ多いのか?」を問うことに過ぎない、ということに気付かれないといけません。アルゴリズムとは、まずはその敷地周辺データを基にして出発したうえでの、予算状況や施工状況を加味した中での光の総量(最も明るい)の確保、ということに過ぎないのです。つまり、プロジェクトが持つ、様々な与件を考慮した中での、最大限の明るい家、ということを示しているに過ぎません。

PROCESS
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01.【量のアルゴリズム】

このプロジェクトの敷地は、細長く奥行きがあり、敷地周囲が建物(特に南西に17階建てマンション)に包囲されており、通常の横(窓)からの光では部屋が薄暗くなってしまうという点でした。よって、結果それは「上からの開口部(トップライト)」の大々的な採用を意味することとなりました。

そこで、【1年:春夏秋冬を通じて ・ その各季節の朝~夕方までの光の総量】を想定し、『それが空から最も多く降り注ぐような「上からの開口部(トップライト)」を設ける為の建築物の形』を模索することに考えが至りました。

ただ、光を取り入れる開口部の位置や大きさの配置は、ただの“勘”だけから導かれるだけでは不充分です。 つまり、一番になる為の「正確な計算」をしないといけません。これがアルゴリズムです。

この解析を行ってくれたのが、米国 コロンビア大学で教鞭を執る設計・リサーチ集団:PROXY(Toru Hasegawa & Mark Collins)でありました。

彼等は、この光の総量の解析をMAYA(エイリアス・システムズ社によるハイエンドCGソフトウェア)によって導かれるアルゴリズムによって光を取り入れる開口部の位置や大きさの配置を解析しました。無味乾燥な数式の羅列であるコンピュータープログラム(アルゴリズム)は、このプロジェクトの諸室群を一番明るくする為の開口部の位置と大きさを決定する為の計算式なのです。

今回使用したアルゴリズムは、【写真】にプリントされたある特定の数値域(日常の視覚で捉えられていた域)のみを抽出し、その分布状況をアルミ有孔板の孔の“大きさ”と“配置”に変換する、という方向によって C言語が記述されました。
わかりやすく言えば、「かつて見慣れていた風景で目に入りやすかった数値領域(反射した光が目に入ってきていた部分)を抽出するアルゴリズム」を書いた、ということになります。
こうして、「オリジナル写真」が持っていた「固有性」という名の“記憶”は、アルミ有孔板の“大きさ”と“配置”に姿を変えてゆきます。
無論、こうしてできてきたアルミ板の孔を通して、天からの光が住宅(家)の内部へ入ってくることは言うまでもありません。「I remember you」内部空間の質は、その住宅(家)の“記憶”の「固有性」が決定してくれた孔から入ってきた光によって決定されているのです。これが、“記憶”を“光”に翻訳する際のおおまかな方法です。










プログラミング :石橋正紀(建築設計事務所:前田紀貞アトリエ一級建築士事務所)
プログラムソフト:Processing

同様に、【録音音声】についても同様な扱いが成されました。
「録音された音声」を音圧分布の特性から引き出したアルゴリズムとして抽出し、やはりそれを有孔板の孔の“大きさ”と“配列”に変換してみます。
こうすると、【写真】とは、やはり異なったパターンが生成してくるのです。







「I remember you」では、アルゴリズムという方法によって、できるだけ建築というものが「自動生成」してくる創作の地点を探ろうとしています。

 

PROCESS

​前田紀貞アトリエ:http://maeda-atelier.com/

02.【質のアルゴリズム】

この後に大切になってくる作業とは、このトップライト群から入ってくる光の「質」の決定なのです。

ありふれた街の市民会館のトップライトから落ちる光の風景は、どこででも目にされるような大変に一般的な光の風景(空間=空気)ではありますが、それが決して普遍的になることができない、ということ。光(空間=空気)の普遍性とは実は、固有性という特殊性によってのみ保証されることが了解されることと思います。

では、この【固有性】とは何なのでしょうか?それには、「固有名」というものを考えてみるとわかりやすいでしょう。「固有名」というものは、その「個別性」故に、決して他のものと取り替えのきかない(翻訳不可能)性格を持ってしまっており、それ故、普遍的となる訳です。

今回のプロジェクトは、アルゴリズムという普遍的な計算手順から、その「(光の)量」が導かれたと同時に、その「(光の)質」を決定してくれるものが、固有性という名の普遍性なのです。そして、その「固有性」を決定してくれているものは、特に住宅の場合、その建築に関わる人の「記憶」なのかもしれません。決して忘れ得ないものたちへの想い。それが、光という実際に手に取れるものになることなのです。


ここで扱った“記憶”とは、クライアントがとても大切に、そして愛おしく、忘れ得ぬものたちの“写真”(視覚的)と“録音音声”(聴覚的)から引用されました。
これら(写真と音声)が持っている「固有性」を、アルゴリズミックな手順で抽出してみることで、最終的にはそれらの“記憶”(写真と音声)を、室内に設置されるアルミ有孔板のパターン(光の質)に変えてゆくことが考えられました。
そうすることで、クライアントがいつも、天から降り注ぐ「忘れ得ぬものたちの光」の中で呼吸し、その「固有の光」(ここだけにしかない光)に満たされ生きていく、そういうことを希望したのです。
無論、空間とは“光があることで初めて現象してくるもの”ですから、「I remember you」の空間そのものが“忘れ得ぬものたちの記憶”によって出来上がっている、と言ってしまっても何も間違いではありません。
「I remember you」の空間の質とは、“記憶”によって初めてその姿を現わしてくれる、そんなものなのです。

​前田紀貞アトリエ:http://maeda-atelier.com/

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